ひきこもり家庭の10万円給付問題。上手く使って家族関係の改善を!

今月と来月の「お話聴きますカフェ」

お話聴きますカフェは原則月2回、中島れんばいふれあいセンターさんの「会議室D」で10時~16開催です。詳しくはこちら。

  • 今月(5月):10日(金)、25日(土)
  • 来月(6月):14日(金)、29日(土)

5月ごろ、日本国民へ政府から給付された10万円。これがひきこもり当事者を抱える家庭では大きなトラブルの元となっていました。

私が実際に聞いたのは、

  • 親が「給付金から生活費を払わないか」と提案し、当事者が暴れる・心を閉ざすなどの出来事が起きた
  • 当事者の給付金を親が勝手に家計に繰り入れていた

などの事例です。いずれも数ヶ月経っても家族と当事者の関係は悪化したままなのだそうです。給付金の前までは家族関係が良好だったのにも関わらず、給付金をきっかけとした親の態度で急激に悪化してしまったのです。

なぜそのようなことが起きたかを考えてみましょう。

ひきこもり当事者はコンプレックスの塊

どのような理由でひきこもってしまうかは人それぞれですが、ひきこもり当事者が抱えているコンプレックスで多く聞くのは以下のような内容のものです。

  • いい歳をして働けていない自分は未熟だ、劣っている
  • いい歳なのに親のすねかじりなんて情けない
  • 同年代の友人知人はもう……
    • 家庭を持っている
    • 父親(母親)である
    • 仕事でベテランだ
    • 部下がいる
    • 当たり前のように安定した収入がある
  • 「普通の暮らし」をしたいが、できない
  • 「普通の人」になりたいが、なれない
  • 自分は「普通」より劣っている、「普通未満」である
  • 自分が送っているのは「当たり前の日常」ではない
  • 自分は幸せでいてはいけない、このような暮らしは許されない
  • 親に負担をかけている、親の荷物になっている
  • 親が自分の人生を楽しめないのは自分のせいだ
  • 親を養うような年齢で、親に養われているのは申し訳ない

全ての人が上記のように考えているわけではありませんが、ひきこもっている間に上記の一部が思い浮かんだ方は少なくないと想像します。

私自身、過去の3年間のひきこもり経験中はたびたびこのように思いました。その後も「満足に会社勤めができない自分」「人生が10年遅れた自分」について考えるたび、上記のような思いが浮かびます。

そしてなお悪いのは、「ひきこもり当事者は、ひきこもってしまっているがゆえに、どのような思いを抱いているかが家族に伝わっていない」点です。

いい歳になって親の世話になって暮らしていることを「後ろめたい」と感じているのが周囲に伝わらないのです。だから心ないバッシングを受けて傷つき、さらに心を閉ざしてしまうのですね。

このような思いが前提にあると考えた上で、「ひきこもり当事者を抱える家庭に、10万円が給付された」と考えてみましょう。

「10万円給付」をもらうのに必要な権利は?

コロナ禍において国民一人ひとりに給付された特別定額給付金の10万円は、「国民なら年齢性別を問わず受け取れたお金」でした。(より正確には「基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている方」が対象です)

つまりは、

  • 0歳でももらえる
  • 働いていなくてももらえる
  • 病気や障害があってももらえる
  • 未納の税金や公共料金などがあってももらえる

という給付金でした。

ひきこもり当事者に対して「働いてないからもらう権利がない」などの発言は、的外れであるばかりか、その発言そのものが権利侵害となりかねない内容だったことがわかりますね。

ゆえに私(悠遊寛緩代表)と母は、「『国民の権利』として給付されたんだから、用途を決める権利は各個人にある。家族だからといって口出しするのは好ましくない」と考えていました。

ですが、私と母には想像できないような理由で「ひきこもり当事者の給付金の用途を勝手に決めようとした家族」がいらっしゃったようです。

給付金でトラブルはなぜ起きた?

ひきこもり当事者の家族の言い分を考えてみましょう。

  • 日頃、ひきこもり当事者の生活費を負担しているが、その負担は軽くない
  • 夫婦ともに定年退職済みであり、年金生活なので、夫婦以外の家族を養うのは難しい

高年齢のひきこもり当事者を抱えるご家庭では、家族の方からはよくこのような主張があります。

現実問題として生活するのにお金がかかる以上、出てきて当然の意見です。

ですので10万円が給付された以上、「そこから生活費を出してほしい」と思うのは当然の成り行きだと思います。その点は否定しません。

ですが、その前に一度考えてほしいのです。

  • 「家族で生活費を負担する」と決めたのなら、「家族」に入った給付金をなぜ使わないのか?
  • 「家族の家計が苦しい」のなら、「家族全員の給付金」をなぜ使わないのか?

落ち着いてよく考えましょう。ここは本音が強く出る部分です。

  • 当事者の生活費を負担すると決めたが、内心では負担したくない
  • 平気なふりをして生活費を払っているが、内心、強い負担になっている

そんな本音があるからこそ、「当事者に金が入ったなら当事者に払わせたい」という思いが出てきてしまいます。

だから「給付金から生活費を払わない?」などと言ってしまうのでしょうが、「親が口出しして給付金の使い道を決めさせる」のは、一人前の大人に対する態度ではありません。それこそがひきこもり当事者を「大人と認めていない家族の本音」が出ている行動なのです。

そして、強いコンプレックスを持つ当事者たちは、そういう「自分に向けられた負の感情」を恐ろしいほど正確に見抜いて反応します。

  • 「今まで払ってくれていたのは、『仕方なく』だったんだ」
  • 「負担でないような態度を取っていても、本当は負担でたまらなかったんだ」
  • 「今までずっと親に騙されていたんだ」
  • 「やっぱり自分は『普通未満』の出来損ないなんだ。家族でさえそう思っているんだ」

そんな風に思い込んでしまった当事者が、親や家族に不信感を抱き、強く心を閉ざしてしまうのも、また当然の成り行きと言えるでしょう。

「10万円給付」理想的な使い方は?

では、給付金はどのように使うのがよかったのでしょうか。

「10万円をひきこもり当事者に自由に使われてしまっては、苦しい生活が更に苦しくなる」というご家庭もあったことでしょう。

そこで「家族関係が悪化しても良いから、当事者から給付金を奪い取ろう」と思える人は少数派だと信じたいですが、「好きに使いなよ」と渡すのは躊躇う方も多いでしょう。

そこで私(悠遊寛緩代表)が提案するのは、「家計の事情を話した上で、ひきこもり当事者に使い道を選択させる」という方法です。

降って湧いた多額の給付金、できたら自由に使いたいのは誰しも同じですね。3人家族だったとして、「1人5万円」を家計に出して、残りの5万円を各自が自由に使えるとしたら素敵なことではありませんか?

  • ひきこもり当事者を「ひとりの大人」「家族の一員」と認めて、家計の相談をする
  • 家族全員が「自分自身の選択で」使い道を決める

これが禍根を生まない妥協策として提案したい方法です。

当事者の良心を信じて全額渡す方法もあると思いますが、元々通じ合っていないご家族が急に通じ合えるものとは思えません。

ひきこもり当事者を含めた家族全員での家計の相談は、ひきこもり当事者を「家族の一員」として認める行動でもあり、仕事をしておらず家庭も持っていない「一人前でない大人」のひきこもり当事者を「大人」と認めて頼る行為でもあります。

10万円給付金の使い道をまだ決めていないご家庭や、今後また給付されたときの対応にお悩みのご家庭の参考になれば幸いです。

まとめ

ひきこもり当事者は強いコンプレックスに苛まれています。「国民なら誰でももらえる特別定額給付金」は、家族の本音を露出させかねない危険な罠です。使い道は家族全員が自分の意志で決められるように相談しましょう。それがひきこもり当事者のコンプレックスを和らげることにも繋がるかもしれません。

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